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京都・西陣 路地の向うの『お召やさん』

路地の奥から聞こえる機の音に誘われて、お召やさん訪ねました

京都・西陣 路地の向うのお召やさん

西陣

京都の中心よりちょっと上(かみ)の方、今出川通を挟んで北側と南側、西は北野天神さん辺りから、東は堀川通を越えた辺りまで、京都らしい町屋のしっとり落着いた佇まいと、今風のモダンな建物が混じりあった一帯を「西陣」と呼びます。
昔からこの界隈は伝統工芸『西陣織』の産地として知られ、帯屋さんやネクタイ屋さんを中心に、機屋さん、糸屋さん、糸染屋さんなど、今も数百軒の西陣織に携わる会社や工場が集まっています。
細い路地を進んでゆくと、車のエンジン音が遠ざかり、間口の狭い町屋の奥の方から「ガシャンガシャン...」と織機(しょっき)の音が聞こえてきて、街中の喧騒をしばし忘れます。

御召

そんな西陣で、西陣織の帯と共に江戸時代から受継がれている織物が「西陣御召(にしじんおめし)」です。江戸時代の十一代将軍、徳川家斉公が特に好んだ先染縮緬(さきぞめちりめん)の一種を「将軍様の御召物(おめしもの)」と呼び、それがいつの頃からか「御召」という一般名称になりました。
御召とは先染織物で「御召縮緬」の略。糸は、先練り(さきねり)、先染め(さきぞめ)した絹糸を用い、下撚り(したより)をかけて糊を付け、乾かぬうちに強い撚りをかけ、その糸を緯糸(よこいと)として使用した織物です。
「縞(しま)御召」「絣(かすり)御召」は柄による名称であり、「経錦(たてにしき)」「風通(ふうつう)御召」「縫取(ぬいとり)御召」「紋御召」「上代御召」は織り方による名称です。
この歴史的由来を持つ「御召」が新しい感覚で現代に甦りました。軽くてしなやかな着心地の良さと、シャキッとした張り、異なる風合を併せ持つ素材感が魅力です。

風通

御召には、柄や織り方によって様々な種類が有ります。
「風通御召」とは二重組織で織られた織物で「風通機」という特殊な機で織られます。二色の糸で織られ、組織と組織の間に袋状の空間が出来るので「風が通る」という感覚からこの名称が生れたと思われます。表と裏の文様が反対の配色になり、両面使えると言う特徴があります。
奈良時代の正倉院宝物の中に風通の原型を見ることが出来ますが、現在の組織とは異なる為、今に伝わる「風通」の正確な歴史を辿ることはできません。

気温35度を超える暑い暑い真夏の昼下がり 「糸染めやさん」と「御召ぬきやさん」と「機やさん」訪ねました。

西陣では、帯も御召も分業により製品化されます。
この日お邪魔したのは、御召の糸を染める「糸染めやさん」と御召糸を作る「御召緯(おめしぬき)の本よりやさん」と生地を織る「機(はた)やさん」。

糸染めやさん

糸染めやさん

車一台がやっと通れるくらいの一方通行の曲りくねった細い路地を右へ左へ進み、先ず訪れたのは「糸染めやさん」。
夏はとても蒸し暑く、冬は底冷えがして寒いに違いない広い仕事場の中で、お目に掛ったのは、糸染め一筋53年!の職人さん。驚いたことにこの仕事、まさに「経験と勘」が全て!!と言っても過言ではない...そんな奥の深い仕事でした。
「先練り(さきねり)」「後練り(あとねり)」という言葉があります。繭から取り出した絹糸は「セリシン」と呼ばれるたんぱく質成分の膜で覆われていて、染織段階でより良い風合や光沢を出す為にこのセリシンを取り除きます。この作業を「精練(せいれん)」または「練り」といい、糸の段階で行うことを「先練り」。白生地に織り上げてから行うことを「後練り」と呼びます。
「先染め」「後染め」とよく言いますが、先染めとは先に糸を色に染めてから生地に織り上げること。後染めとは白生地に織り上げてから、後で色柄に染めること。
御召は「先練り、先染めのきもの」、西陣織の帯も先染めなので、西陣ではこの「糸染めやさん」の存在が重要です。

  • 糸染めやさん

    大型の食洗器みたいな銀色の機械の中に、精錬(先練り)した綛(かせ)糸を掛け、機械を動かすと、綛糸がゆっくり回り始め、60℃位の温水が噴水のように吹き出て糸をまんべんなく湿らせてゆきます。

  • 糸染めやさん

    途中3回ほど色をチェック。見本の糸と比較して大体の色味を確認し、更に感覚によって調整します。でも濡れた糸は光って濃く見えるので、今度はきつくきつく絞って更に比較。

  • 糸染めやさん

    素人の私が「もうOKでしょ?」と思った辺りからの微調整こそ、まさに職人技!...やっぱりくわえタバコです(^^)

  • 糸染めやさん

    機械を動かし続けること50分。仕事場の温度がどんどん高くなる中、職人さんのちょっと誇らしげなニコニコ笑顔の表情から、計算通りの色に染め上がった満足感が伝わりました。
    以前、後継者を育てるために、染料を正確に計ってデータを取り、データに従って染めてみた事も有るけれど、どうしても同じ色には染め上がらなかったそうです。湿度や温度の微妙な変化が、染織には大きく影響するらしいのです。

  • 糸染めやさん

    結局、長年の経験と感が、データよりも正確な結果を生むという事が、職人さんにとっての大きな誇りであるることは間違いないけれど、一方で、なかなか後継者を育てることが出来ないジレンマも垣間見ることになりました。

御召緯(おめしぬき)の本よりやさん
  • 御召緯(おめしぬき)の本よりやさん

    御召糸に強然をかける作業は「八丁撚糸(はっちょうねんし)」と呼ばれ、糸に水をかけながら撚りをかける湿式方法で行われます。

  • 御召緯(おめしぬき)の本よりやさん

    そのため仕事場は、人一人がやっと通れるくらいの通路以外は、巨大な撚糸機(ねんしばた)が占領していて、動き続ける機械から発せられる熱と、糸にかけ続けられる水の湿気で、汗が滴り落ちる蒸し暑さでした。

  • 御召緯(おめしぬき)の本よりやさん

    下撚り(右撚りと左撚りとがある)され、染色され、糊づけされた緯糸は、さらにここで1メートル間に3000回から4000回の撚りがかけられます。
    右撚りと左撚りの2種類の強然糸を横糸に織込むときの組合せ方によって、さまざまな風合の違う生地が生まれます。

  • 御召緯(おめしぬき)の本よりやさん

    ここでの作業は、機械の構造が複雑なのと、細い糸の動きが見えにくいのとで、なかなか理解できませんでしたが、3人の職人さんがとても熱心に説明して下さったので、「糸が命」の織物の、大切な工程を少しは理解することが出来たと思います。
    本当に暑いのに、こんな素敵な笑顔でお話して下さって本当にありがとうございましたm(_ _)m
    ちなみに、横に写っている赤い物は、糸に水をかけるためのジョウロです...可愛いゾウさんのジョウロです(^^)

機(はた)やさん
  • 機(はた)やさん

    らしい麻の白い暖簾をくぐり「うなぎの寝床」と呼ばれる京都独特の細長い町屋を奥へ奥へと進んでいくと「ガシャンガシャンガシャン...」織機(しょっき)の二重奏、三重奏が聞こえてきます。西陣の町屋は本当に長~~いです!

  • 機(はた)やさん

    この機屋さんでは、主に「風通(ふうつう)御召」という二重組織の御召が織られています。

    仕事場には、7台の天井まで届くような高い織機が、所狭しと据えられていて、それぞれの機には、色や柄の違う反物や帯が掛っていました。

  • 機(はた)やさん

    機に掛った御召は、生地表を下にして織っていきます。そのため織り上がってくる生地の下に鏡を置いて、鏡に映る生地表をチェックしながら織り進めていくそうです。

  • 機(はた)やさん

    茶と黒の二色で織られた、モダンな幾何学模様の反物の柄の表側は、茶と黒が反転しています。

    「どっちを表にしてもお洒落やなぁ~」と、きものに仕立てた感じを想像しながら機を眺めていると、ようやくこの段階まで来ると、反物が出来上がる事を実感できます...本当に長い長い道のりです(^^)

  • 機(はた)やさん

    織り上がった生地は、湯で洗って「シボ寄せ」を行います。緯糸を強く撚っているので、湯に浸けると織り幅が縮み、シボ(布面の小さな凹凸)が生れます。
    最後に湯のしをして幅を整え仕上げます。

今を生きる伝統の技

こちらの機屋さんでは、伝統の技を大切に守りつつ、より新しい感覚の御召創りに向けて日々創意工夫を重ねておられます。「きもの」という、人を美しく飾るためのアイテムである以上、伝統を守るだけでは時代が求める感性に取残されてしまう...そんな思いからでしょうか?
快適さとは程遠い仕事場で、腕の良い職人さんの高齢化や、後継者が減り続ける現状に不安を抱きつつ
こつこつと積み上げられた経験と技が、西陣の路地裏には今も確かに生きています。
それを未来に伝えようとする強い意志と、可能性を信じて頑張っておられる姿に接することが出来た貴重な貴重な一日でした。

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